風俗嬢デビュー③
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「源氏名決めてなかったね」
中野さんは私の方を見て言いました。
少し離れた場所から煙草を吸っていた女の子が
「今、決めればいいちゃうん?」
とニコニコしながら私に問いかけました。
ほかの女の子も賛同してくれて、みんなで私の名前を決めてくれました。
私の源氏名は〝ゆき〟になりました。
色の白さと、雪国で育ったという理由からでした。
それから、中野さんと女の子にお店のルールや仕様を教えてもらいました。
出勤する一時間前に確認メールを送ること
お店に来たらスタッフに挨拶をし、タイムカードを切ること
制服に着替えて五分前には準備を終わらせること
女の子同士で派閥を作らず仲良くすること
お客さんとの連絡先の交換は禁止
待機室でお客さんの悪口を言わないこと
今書き出してみても、きちんとしているお店だったと思います。私はここで働くことを決め、三日後に体験入店することになりました。
お店の見学が終わると、待っていてくれた彼と手を繋いで家まで帰りました。
私は興奮しながら一部始終を話し、このお店で働きたいことを伝えました。
その日は不安と期待が入り交じって、久しぶりに寝付きが悪い夜でしたが、決して嫌な感情ではありませんでした。
体験入店する日はあっという間に訪れました。
お店に入ると、はじめて店長と挨拶をしました。
「これからよろしくね」
どこか影のある印象で、少し怖さも感じました。
後からきた中野さんに
「ゆきちゃん緊張してる?」と言われ、私は苦笑いで頷きました。
制服を着て、いよいよ待機していると
ものの数分でコールがかかり私の名前が呼ばれました。
「ゆきさん、三番のお部屋へお願いします」
いよいよ緊張もピークでした。
中野さんに説明を受けたことを思い出しながら、お客さんの待つ部屋へ向かいました。
薄暗い廊下に3という文字が書かれていて、部屋の前に立つと三回ノックしました。
「はーい!」男の人の声がしました。
「失礼します」と言って入ると、40代くらいのスーツのおじさんが座っていました。
「ゆきちゃんだよね、ホームページ見て予約したんだよ」
風俗に通っている常連さんは、新人目当てで来る方も多くいるのですが
私のはじめてのお客さんも所謂、新人キラーでした。
服を脱ぎ、畳んでシャワーを浴びる。
言われるがままに寝て、お客さんに奉仕して終わる。
とんでもなく、あっさりしていました。
こんなものなのかと拍子抜けしました。
気持ち悪いとか、汚いという感情は全くありませんでした。
逆にこれはいける、私は働けるんだという自信さえありました。
けれど、これが落とし穴ということに
私はまだ気付きませんでした。
お客さんを下の階まで見送ったあと、すぐに中野さんと副店長の村野さんが駆けつけてくれました。
「どうだった?大丈夫そう??」
私は緊張したけれど、お客さんも優しかったし大丈夫だったと答えました。
「よかった、ゆきちゃんは人当たりがいいから安心だよ。これからよろしくね。」
村野さんは私の手を握り、横で中野さんも小さく頷きました。
「よろしくお願いします」
私は風俗嬢になりました。